ミレニアル・フィルムメーカーが作った動画がある。
タイトルは、「ミレニアル:私たちって情けないよね。謝るよ。(Millennials: We Suck and We’re Sorry)」 このビデオの中で、4人の20代から30代前半の男女ミレニアル達が交互に登場し、こういうことを言う。「私たち情けないよね。判ってる。自己中心的で、自惚れていて、ナルシストで、怠け癖があるし、子供だよ。本当にごめん。私たち、最低だよね。私たちの親みたいだったら良かったのに。 でも、何が起こったのか、私たちにも判らないんだ。自分たちは特別だって言われて育った。すごく特別で、特別になるための努力は必要ない、と思わせるぐらいにね。サッカークラスに参加しただけでトロフィー貰えてたし。ね、すごく特別でしょう。それなのに、どうしてこんな私たちになったんだろう。両親はベストの子育てをしたはずなのに。(途中省略) ミレニアルを代表して、こんなに最低な自分達のことを謝ります。そしてベビーブーマーのようになるわ!(自分達の親の世代)。だって、あなたたち、いかしてるもん」 このビデオを制作したのは、ステファン・パークハースト。2013年にタイム誌に掲載された記事『ミレニアル:ミー(自分)・ミー・ミー世代(Millennialls: The Me, Me, Me Generation)に反応した。 『How to Raise an Adult (どうやって大人を育てるか)』の著者は言う。 『批判の矛先をミレニアル達に向けるのはフェアではない。ミレニアル達だって希望に溢れ、成功したいと思っている。職場のミレニアル達の態度の批判は、彼等の育てられ方の批判であるべきだ。ステファンが、この記事に反論して私も嬉しい』。 この動画作者ステファンは、ニューヨークでフィルム制作を専攻し、大学を卒業したものの、フィルムに関わる仕事にありつけず、地元に帰って、駐車場で働いていた。彼は著者のインタビューにこう応えている。 『母親から“ポジティブであれば、きっと素晴らしいことが起こる”と言われて育ったから、その通りにその機会を待ったのに、一向に素晴らしいことは起こらなかった。ある日気がついたんだ。母親が言っていたことは全くのナンセンスだったんだ、って。それは、その当時の子育てがそういう流れになっていて(セルフ・エスティーム・ムーブメント。結果より個人の存在を尊重する)、“子供に言うべき言葉”だったんだよ。僕の母もその子育てトレンドに忠実に、それが子供の自己形成に良いと、ベストを尽くしていたんだ。 でも、今、子育て中の親達に言いたい。結果を得るには、その目標に向かって、必死に自分で動かないといけない、ということを子供に教えてほしい。』 ![]()
今回は、前回の『NY:母親達の選択』で紹介した、ジュリー・リスコット−ヘイムス氏の著書、『How to Raise an Adult – Break Free of the Overparenting Trap and Prepare Your Kid for Success(どうやって大人を育てるか。過剰子育ての穴から脱却し、子供に成功の覚悟を決めさせる)の続編。
今回は、ヘリコプターペアレント子育てからの脱却の提案を紹介したい。 紹介するのは13章から18章(17章、19章から22章は省略)。 13章:子供達だけで遊ばせる。大人は様々な制限や解決法を与えない。 14章:ライフスキルを教える。 15章:考え方を教える 16章:困難に立ち向かうために必死に働く(動く)。 18章:困難を日常化する。 本で著者は、各章のテーマごと、脱却のための提案を詳細で具体的な例やロールプレーなどで書いているが、それを全部紹介すると、この本の翻訳本が出来てしまうので、著者が、それぞれのテーマを選んだ理由になる部分をここで紹介したいと思う。 ![]()
13章:子供達だけで遊ばせる。大人は様々な制限や解決法を与えない。
著者はThe National Institute for Playのブラウン教授に聴いている。 『“NASAやボーイング社は、R&D問題解決人は雇わない。例え、トップのエンジニアリング大学を出ていてもね。その代わり、小さい時に手を使い、物を作っていた人達を採用する。光らせてみたり、直してみたり、足してみたり、自分の興味からそういう工夫をして創作をする人材だ。 この能力は、航空学の問題解決に必要な能力だが、他分野でも活かされるはずだ。でも、大人が、子供達が遊ぶ時に常駐し、問題が起こる度に解決していたらどうだろう“』。 著者は、フリープレイ(子供達だけの遊び)の大切さを強調する。 『遊びは、子供達がしなければならならい、産まれて初めての、成長するための仕事。 ボストンカレッジのグレイ教授は、子供達だけの遊びが、精神的な健康に欠かせないと言及している。“子供達には、自分達で選択して、やり方を決めるアクティビティが必要だ。大人は結果を出してあげることが子供のためになると思い、子供達が遊んでいる最中に、助言や、やり方を見せたりするが、それは、子供達が始めたアクティビティとかけ離れ、子供の意志でない方向に行ってしまう”』。 前回、公の中で、子供が成長することの大切さを、ウェズリー大学の社会学准教授、ルザーフォード氏の言葉で紹介した。 “今のアメリカ社会は、村(コミュニティ)が子供を育てる、という意識が失われている。つまり、信頼しているコミュニティのネットワークを当てにしながら、子供達が公の領域で成長する代わりに、今の親は、個人の領域で、不安と孤独のなかで、子供達を外の世界に対応させるベストの方法を模索しながら子育てをすることになった。” 今この“公”の子育てをしている、カリフォルニア州メンロパーク在、シリコンバレー起業家、マイク・ランザ氏に著者はインタビューしている。 『マイクの8歳の息子は、一人で自転車で商店街に行き、床屋でマイクと待ち合わせをする。もしマイクが遅れたら、息子は、待っている間、床屋の店主と会話をする。床屋の後は、一人で自転車屋に行ってブレーキを調整してもらう。 マイクは、ご近所の存在は、子供が自分独自の代理/媒介を作り出すユニークな場所だと言う。子供達は、親を介さないご近所との対話や触れ合いの中で、世間の中での自分を確立するためには、周りの助けが必要だということを知る。そして周りに見守られる必要もある。ご近所、というのは、家の外でありながら安心できる特別なゾーンで、その中で子供達はしたことのない事にトライし、行い、違う者になれる特別な場所なのだ、と。』 ![]()
14章:ライフスキルを教える。
学校の宿題がある、テストがある、部活がある、受験がある、だから親が全部する、では、子供はいつまでたってもライフスキルを習得できない。家庭で自分のことを自分ですることは、子供が一番初めに体験できるライフスキルなのだ。 以前観た日本のドキュメンタリーで、ある高校野球部の生徒が、部活で遅く帰ってきた後、自宅で自主トレ、宿題をする前に自分の弁当箱を洗っていた。その男子生徒は不平そうな様子を見せるでもなく、逆に大きな弁当を毎日作ってくれる母親のことを感謝するようでもあった。 部活で帰宅が遅い息子のために、親は洗ってあげたくなる。それを敢えてこの子の親はさせていた。 著者は、本の中で、『子供が出来ること、もしくはもうすぐ出来そうなことは、子供にさせる勇気を持つことが大切』という。著者の知合いで、知的障害を持つ子供がいるある家庭が、子供の自立を促すために次のアプローチをとっているという。
『このアプローチは、知的障害を持つ子供だけでなく、子供にライフスキルを教えるベースになるのではないか』、と著者は言う。そして、その場で完璧を求めないこと。 例えば、先ほどの男子高校生。初めは弁当箱もきちんと洗えていなかったかもしれない。でも、その場で「きちんと出来ていない!」と批判はしない。大げさに褒めることもしない。 でも時をみて、「洗ってくれてありがとう。でも、ここが落ちてなかったから、次からこうしてはどうだろう」でいいのだ。 本の中で著者も(偶然お弁当の例だが)例を出している。『どうしてランチボックスを廊下に置きっぱなしにするの? あれだけ、しちゃだめだって言ったじゃない』と叱るのではなく、『ランチボックスが廊下に置きっぱなしね。このままだとどうなると思う? そうよね、蟻が来るわ。家の中に蟻が入ってきたら嫌よね』と諭す。このやり方は、次の章のテーマにも繋がる。 15章:考え方を教える—自分の箱の外に出て独創的なアイデアを持つには。 近い将来、コンピューターが出来る仕事に人は就かないようになるだろうと言われている。 本の中で著者は、The Foundation of Critical Thinking(クリティカルシンキング財団)の指摘、“変化が早く、複雑化は更に進み、相互依存が増える社会において、クリティカルシンキングは今、経済的、社会的に生き残るために必要条件になっている”、を挙げている。 『作家のデレシウィクス氏は、彼の本、『最高の羊達の中で(In Excellent Sheep))の中でこう言っている。“若者の多くが、羊のように、親や教育者、社会が彼等の前に置いた様々な輪を、エリート大学、エリート職をゴールに、次から次に飛んでいるようだ。 用意された輪を飛んで、優秀な成績を収め、エリート大学/職の狭き門へのドアは開いてはいるけれど、彼等の心は閉ざされてしまっている。知的グレーエリアに挑戦することは教えられず、覚えてきたことへの正否を知っている事に満足してしまっている。若者はすべきことをしていると思い、立ち止まって、それが自分が本当にしたいことなのか、そしてなぜか、を考えることはしない。テストのための教育と、子供に判断/選択をさせない親、甘やかしで受け身な親達が、この現状を招いた”』。 著者は、日常の親子の会話で、クリティカルシンキングは練習できるとする。日常会話はクリティカルシンキングの結果をその場で体験できるので有効的だ。 『私の会話の提案は、質問を繰り返し子供にする、ということだ。質問を途切らすことなく会話を続けるということは、親が子供の発言や行動に常に興味を持っていなければできない。“何”、“どうやって”、“どうして”を子供の答えの中から汲み取っていくのだ。もちろん年齢が上がるにともなって会話の内容も複雑で洗練されていくが、基本的なアイデアは変わらない。 会話ロールプレーの例を挙げよう。 就学前の子供との会話例: 子供:蝶だ。 親:そうね。蝶ね。良く出来たわ。あの蝶は何色? 子供:オレンジと黒。 親:その通り。すごいわ。 ではなく、繰り返し質問することを頭に置き、次のようにしてみたらどうだろう。 子供:蝶だ。 親:今、蝶は何をしているのかしら。 子供:花に止まっている。そして次の花に行こうとしている。 親:なぜ蝶は花が好きなのかしら。 子供:綺麗だから? 親:そうかもね。他に理由はあるかしら。何だと思う?(と、話は続いて行く) 続けて質問することで、子供が既に知っていること以外に意識をもっていかせ、その知識に関連した次のコンセプトに到達する手助けをすることになる。
16章:困難に立ち向かうために必死に働く(動く)。 文頭で紹介した、動画「ミレニアル:私たちって情けないよね。謝るよ。(Millennials: We Suck and We’re Sorry)」は、困難に立ち向かえない自分達を皮肉っている。 『記憶やテスト重視の教育が主流になると、子供の成績をポジティブ評価しようと「良くできた。頭がいいね」と褒める。でも親のこのフィードバックの効果はマイナスに出ることになってしまう。 スタンフォード大学の心理学教授ドウェック氏は、『成長思考(growth mindset)』− 継続して成長し、学び、努力への忍耐をつけていく、というコンセプトを提唱した第一人者だ。 ドウェック氏は言う。 “頭が良い、と言われてきた子供達は、そのうちに、与えられた課題で思ったほどの力を発揮しなくなる。その理由は、頭が良いと信じて成績が良いと、努力を怠るようになり、その結果、より簡単な課題を選ぶようになる”。この傾向をドウェック氏は、固定思考(fixed mindset)と呼ぶ。これとは反対に、努力に対して適切に褒められた子供達は、成長思考を身につけて行く。“成長思考の子供達は、成功が努力によってもたらされたと知り、どの場面でも課題に努力をすることが望む結果をもたらす、と考えるようになる。そして困難な課題でも、自らの力で乗り越えようとする。努力を重要視することは、子供達に自らの力があることを信じさせ、自らの成功も自分の力で得ようとするようになる。ところが、頭が良い、のように、持って産まれたものであれば、自分の力でコントロールすることに限界を感じ、失敗にたいしての免疫さへ弱めてしまうのだ”。』 この一節を読んで以来、私も子供達への褒め言葉を変えた。テストの結果が良いと、「すごいね、頭良いもんね」と、うっかり口走っていたが、「あれだけ勉強したものね。だからだね」と。 主人も「スカラー(scholar—学者)の元の意味は、勉強する人、という意味だから」と、勉強/努力することが、その道のスペシャリストになれると示唆する。 すると、気のせいか、宿題やテストの準備もそれほど苦でないような様子になってきた。 そしてこの章でも、著者は子供達に家の手伝いをさせることの重要さを強調している。 家の手伝いには発見がある。例えば皿洗い一つにしても、はねを少なく効率よく洗うためには、と、自然に考えるようになる。雪かきにして(NYは雪が多い)も、どのシャベルをどの角度で使えば効率が良いか等を考えるようになる。効率が良い働きを探る、ということは、自分でやり方を見つけて、次の課題に進むことになる。そして親は、その働きを適切に褒めることが求められる。 ![]()
18章:困難を日常化する(困難を乗り越えられるように失敗もさせる)。
『子供から失敗するチャンスを奪い、子供が何にでもトップになるための準備にフォーカスし、彼等が一番と褒め称える。親達が、失敗や間違いから子供を守っているつもりでいることが、彼等の成長に害をもたらしている。 子供に、良い人間になること、そして勝ち負けに関わらず、自分が出来る限りの努力をすることの大切さを教えよう。親達は子供に、自分の思い通りに行かなかった時に対応できる忍耐力がつくように子供達の手助けをしなければならない。 私達は、子供達がエリート大学に合格することが聖杯であるかのように振る舞い、常識を逸脱したようなこともしてしまう。例えば、大学への願書を親が代わりに提出するように。 でも、忍耐力は、家庭教師や、テスト準備コース等を子供に与えることで養われない。忍耐力は困難に立ち向かい越えていくことで養われることであって、買ったり生産したりはできないのだ。 頭で、子供達に失敗させることの大切さを理解していても、子に甘いのは親の常、と思うだろう。でも、困難を日常化させて子供達が世の中で生き残るタフさを養うことはできる』。 16章で紹介した成長思考と固定思考はその一つの例。 そしてヘリコプターペアレンツが陥る子供に言う7つの嘘と、子供が忍耐力をつけるために必要な7つのCを紹介している。 まず、7つの嘘。それは、数々のベストセラー本の著者であり若者や企業にリーダーシップ教育を施すエルモア教授が提言した。
これらの嘘が、ミレニアルを精神的に不安定にさせ、社会人として甘い見方を助長するようになったとする。エルモア教授は、子供に対して正直であること、そして率直であることが、子供に忍耐力を植え付けることになる、としている。 次に7つのC。これは小児科医で思春期変化のスペシャリスト、ギンスバーグ医師が提唱したもの。彼は著書の中で、忍耐は7つのCで形成されているとしている。
『文献を調査し沢山の専門家やエキスパートに取材することで、私が行き着いた忍耐の定義はシンプルなものだった。“大丈夫。自分で解決策を見いだせる。もしかしたら違う方法があるのかもしれない。それとも自分がそれを本当に望んではいなかったことに気がつくかもしれない。それでも、私は私だ。私はまだ愛されている”、と、こう自分達に言えるようになることではないだろうか。』 この著者のシンプルな定義。でもそれは、失敗した自分を責めず、プレッシャーで自分を追いつめない成長思考だ。失敗に対処した経験がなければ、シンプルなようで、こういう思考にはならないのであろう。
354ページのこの本の各章で、著者は様々な提案を丁寧に紹介している。
かい摘んででも、私がこの本を紹介したいと思ったのは、私はこの本を読んでいる時に、日本の社会のことを読んでいるような気がしたからだ。 私は、アメリカは自主性を重んじ、個を尊重し、クリエイティブ/クリティカルシンキングの教育をし、世界のリーダーとなる人材を産み出す国だと思ってきた。産み出してきていたのだと思う。 でもこの本に書かれているように、私も、自分の子供が小さい的はプレイデイトをセットアップし、子供達間の喧嘩を仲介していた。子供達は小学校になっても、「明日は誰と遊ぶの?」と大人に聞いていた。それでも私は、それが自主性を重んじるアメリカの子育てなんだと思っていた。周りもそうしていたからだ。 ところが、前回も書いたように、三年半の日本滞在から戻ってNYの私立校に行かせると、アメリカ人ママ友達は、私が中学生の息子を一人で学校に行かせることに驚いていた。よく思われない人もいるかもれしれない、と忠告もされた。 そうやって育てられた子供達が中心となるアメリカの社会と日本の社会が、本を読んでいて何となく似通っている気がしてきた。 そして、この本は日本の子育て/教育にも参考になるのではないか、と思った。 まとめていて一つ意外に思った箇所がある。 子供が自立し、失敗から乗り越える大人になるためには、周りに助けを求められるようになること、という点だ。でも、辻褄が合う。助けられたら人を助けようと思う。それがつながり、助け合う、コミュニティになる。信頼できるご近所さんも復活するだろう。それが子供の自立を助ける一つのファクターとなる。 最近こんなことがあった。私が息子を一人で学校に行かせることに驚いたママ友の長女が、この秋から大学生になった。このママ友のご主人はアイビーリーグ出身で、長女にもアイビーに行くことを期待していた。 長女が選択したのは、優秀校でランキングは高いが、地名度があまりない中西部の歴史ある大学だった(アメリカは、こういう大学が多い。この本の後半でも、ブランド大学に拘らず、子供に合った小規模な優秀校の利点を書いている)。このママ友も、この大学のことを知らなかった。しかし、行ってみて自分の子供に合っていることに驚いた。そのママは、この本の著者が、あるメディア媒体に書いた記事をFBで投稿した。その投稿に、他ママが「こういう本が出てくれてホッとしたわ」とレスポンスしていた。 この本が日本で出版されたら役に立つ家庭や組織があるんじゃないかなぁ。 (次回は、3月10日のポスティング予定です。ずれる場合もあるので、keep checking in!) |